[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―第一章 天使の鏡 ―


第2話:クリスタリア(1)



  
 快晴の青空と少々の肌寒さを感じる中、栗色のロングヘアをした少女が全速力で歩車道を駆け抜けていた。周囲は、新築の輸入住宅

が並び、車が行き交っている。二十メートルほど先には信号が見えて、左手には八百屋があった。

 何故、彼女がこんなに急いでいるのかというと、ある通い慣れた店に向かっているのだ。それは近所にある骨董屋で、店名はクリス

タリア。彼女の家から、歩いて十五分程度の距離にある。


自転車で行けばよかったな? でも、手で持って帰りたかったからこれで良かったよね。


 彼女は、信号に引っかかり一度足を止める。肩に掛けていた淡いピンクのショルダーバッグからレースのハンカチを取り出して、額

に滲んでいた汗を拭う。

 すぐに信号が変わり、また彼女は全速力で駆け抜ける。どうやら、体力には自信があるようだ。直線の道路を突っ走り、お店のすぐ

傍にある三つ目の信号を超えた所で彼女は徐々にスピードを落としていく。歩道を歩きながら、乱れた呼吸を整え、ストレートの髪や

お気に入りのレースが付いたロングスカートを整えて、西洋風の赤いレンガ造りの店の前に立つ。隣には、花屋さんに反対側には美容

院とお店が隣接していた。

「つっ……着いたわ……」

 彼女は期待と興奮に満ちた眼差しで、ガラスのドアを押し開けてお馴染みの店内に足を踏み入れる。同時に、透明の天使のチャーム

が周囲に優しく鳴り響く。

「いらっしゃいませ。おぉー、フルンちゃん! 待っていたよ」

 彼は、優しい微笑を浮かべて彼女を歓迎する。

「マイケル叔父さん、こんにちは!」

 フルンは、いつものようにレジの前へ一直線に向かい、人懐っこい笑顔で中年男性を見上げる。彼こそ、このクリスタリアの店長兼

オーナーであり、幼少時からフルンを愛娘の様に可愛がっている人物だ。

 外見の特徴は、ショートヘアでアンバーの髪、露草色の碧眼が彼の持ち味だ。優しい人相をしており、穏やかな雰囲気を纏っている

せいかお客さんに慕われる事が多く、常連客も大勢いる。店には、主に海外の骨董品が所狭しと並んでおり、アンティーク家具がメイ

ンだ。他にも、絵画や小さな天使のオブジェまで幅広く扱っており女性客にも人気があった。

「フルンちゃん。卒業おめでとう! 中学校の卒業式はどうじゃったかの?」

「ありがとうマイケル叔父さん! 昨日、卒業式が終わったよ。友達と離れちゃうから寂しいけど、もう大丈夫。今は春休みで、四月

からは高校生なの」

 マイケルは、レジを出てフルンの前に立ち、腰まであるストレートの髪を撫でて優しく抱擁をする。これが外国で育ったマイケル流

の挨拶だ。フルンもマイケルの腰に腕を回して抱擁すると、嬉しそうに笑顔を浮かべて胸に顔を埋める。これでも随分と慣れたものだ。

幼少の頃の彼女は、スキンシップが不慣れでいつも緊張のあまり硬直をしていた。しかし、それも最初のうちで、今では恥らっていた

頃が懐かしいほどだ。


フルンちゃん、また背が伸びたかの? 成長していく姿を見れるのはとても嬉しいが、同時に寂しくもあるの。わしも、歳をとったも

んじゃ。


「早いもんじゃの。初めて出逢った時は、まだ私の腰ぐらいの背丈じゃったのに。それで何処の高校に通うんだね?」

「桜花学園高等学校よ。凄く面白い学校だって噂があるの! 私の家からだと電車と自転車で三十分ぐらいの距離だよ」

「そうかい。フルンちゃん、花の高校生活を存分に楽しむんじゃぞ。若いことは素晴らしいことじゃ! どんどん経験なさい」

「ありがとう、マイケル叔父さん。あっそうだ!」

 マイケルが抱擁を解くと、フルンは思い出したように鞄の中から円柱の大きな貯金箱を取り出す。どうやら中身は満タンのようで、

片手で持つには少々重そうだ。この中には、彼女が幼少の頃から貯めてきたお年玉やお小遣いが貯蓄されており、大きな額が入ってい

る。今現在、彼女の中で一、二位を争うほど最も大切なもので、これも全て、クリスタリアにある貴重な商品を購入する為にだ。


ついに、この日が来たのね! やっと、やっとだわ!!


 彼女は、喜色満面の笑みを零しながら、マイケルに大事な貯金箱を差し出す。

「マイケル叔父さん! やっと目標額が貯まったの!! 長かったけど、お金が増えていくのが楽しかったわ!」

「そうかい。おめでとうフルンちゃん! ついに、この日が来たんじゃな。よかったの!」

 彼女からもらった貯金箱を、マイケルはレジのカウンターの下に保管する。

「ありがとう! まだ、あれは置いてあるの?」

「もちろんだとも。フルンちゃんの為に、長年ずっと保管していたからね。ほら下へ行くよ」

 彼は、茶目っ気に片方の目でウインクをして彼女について来るように促し、いつものように地下室へ案内する。地下へ通じる道は、

このお店の奥にある直階段を降りたその先にある。地下には表よりも高価な代物が保管されており、ほぼガラスケースに保管されてい

た。中には暗証番号付きの鍵がかけられていて、厳重に保管されている品物もある。フルンがずっと欲しがっていた商品も、鍵付の物

だった。


夢が叶うのは嬉しいけど、これでもうここの地下室に通うのも最後なのよね。





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