[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―第二章 ルロ―


第3話:ぶっきらぼうな天使(1)



 二つに並んでいる出窓から、朝日が差し込んでいる。眩しくも暖かな光は、正面にあるベッドを晒しその上で熟睡している彼女の顔

を照らしていた。

「んっ……」

 フルンは、朝日の眩しさを避けるように、毛布を頭上まで引っ張って被ろうとする。しかし、その様子を先程から観察していた彼の

手によって阻まれてしまう。

「おい、起きろ」

 低音で不機嫌な声が頭上から降ってくると、フルンは瞼を開けて見慣れない明かりの天井に疑問を抱く。目を擦りながら、再度確認

するかのように瞬きを繰り返していると「やはり人間か……。何故こんなところに」と男性の声が耳に届き、身を硬くしながら恐る恐

るそっちに視線を向けてみる。すると、見知らぬ中性的な男と視線がぶつかり、フルンは驚きの余り絶叫して飛び起きるとベッドの端

に身を寄せて布団を手繰り寄せた。

「なななななんで?! 何で男の人が私の部屋にいるの?! 戸締りはちゃんとしているのに一体どうやって!?」

 彼は、心底五月蝿そうに耳を塞ぎながら、凍てつくようなセルリアンブルーの碧眼でフルンを睨む。

「それはこっちの台詞だ。お前は何者だ? 何故、俺の家にいる? 一体何処から侵入した?」

「…………えっ??」

 彼女の返答に、男は大きく溜息を吐いて癖毛ショートの金髪をくしゃりと掻く。見るからにふわりとした柔らかな髪質をしており、

青空のような眼によく調和している。体には古代ギリシャ風のゆったりとした白色のガウンを纏っており、背中には天使のシンボルと

も言える大きな純白の両翼が見えた。

 フルンは、恐る恐る正面にいる相手の目を見つめながら、頭に浮かんだ疑問を訊ねる。混乱しているせいか、今の状況についていけ

ていないようだ。いつもは出来ている会話のキャッチボールすら、今は成り立っていなかった。

「あの……貴方こそ誰なの? ここは私の部屋の筈なんだけど? それにどうして言葉が通じているの? 貴方は外国人のはずでしょ?

それとも日本語が上手なバイリニンガールとか? あれっ? でも背中に羽が生えてるってことは天使? もしかして私、死んじゃっ

てお迎えが来ちゃったとか? それとも、天使のコスプレをしているの?」

「ちょっと待て。お前が混乱する気持ちもわかるが、今はその五月蝿い口を閉じて俺の目を見ろ。目を。まずは、俺の疑問を解決させ

てくれ。そっちの方が先決だ。その方が話が早い」

 彼女と正面にいた相手は、何故か会話が成立していた。どうやらコミュニケーションを取る上で弊害は無いようだ。フルンは、彼の

上から目線の口調に少しムッとした表情を見せるが、渋々黙ってセルリアンブルーの眼を素直に見つめる。


口は悪いけど、黙っていれば物凄い美形よね。特に、目が綺麗。でも、何で目を見なくちゃいけないんだろう?


「なるほど。そういう理由か。しかし、お前がこっちに来た理由がイマイチ掴めないな。何故、視えない? ブロックしているわけで

も無さそうだが。しかし、まずいな……」

 彼は、腕を組みながら独り言をボソボソと呟く。その間に、部屋の様子を見回していた彼女が、彼の服の端を軽く引っ張ると困惑し

た表情で眉根を下げる。どうやら見ず知らずの部屋で動揺しているようだ。無理も無いだろう。ついさっきまでは、確かに自分の部屋

に居たのだから。

「ねえ、独り言を言っていないで私の質問にも答えてくれない? それに認めたくないけど、よく見るとここは私の部屋じゃないし、

一体何がどうなっているの? 理由がわからないわ」

 フルンと彼が現在いる部屋は、十二帖程の漆喰の白壁にフローリングの床、出窓が二つある。出入り口付近にはもう一つドアがあり、

そこは収納スペースになっているようだ。家具は、ベッドを省いたらカントリーの机と椅子があって、後は二つの本棚だけだ。生活観

こそあるものの、オブジェや装飾品は一切無く必要最低限しか揃えられていないシンプルな部屋だった。

 彼はフルンの質問には答えずに、ベッドヘッドにある出窓に視線を向けた。何かを思考しているようで、固く口を閉ざしている。フ

ルンもまた、先程まで彼に質問を投げかけていたが、今は何を聞いても無駄と悟った様子で大人しく口を結んでいた。疑問だらけのせ

いか早く解消したい気持ちで一杯のようだ。


……厄介な事に巻き込まれそうだな。いや、既に巻き込まれている最中か……。一体、何を使って人間の女の子がこっち側に来たんだ?

ツールが見えなかったのが不思議だ。ウィラエルが気付いていないとは思い難いんだが。


 彼は、心中で大きく溜息を吐くと、ぶっきらぼうにフルンの目を見ながら淡々とした口調で話す。フルンもまた、ベッドの上で座っ

たまま彼の目を不安げに見据えていた。

「取り敢えず、リビングへ行くぞ。質問に答えるのは後だ。まずは、お前に結界を施す必要性がある」

 ハミュルは、表面上は何事も無いように振舞っているが、次第にピリピリとした雰囲気を顕にしていく。何か焦っているようだ。

「えっ……? それってどういう意味? それに結界って?」

「そのままの意味だ。づべこべ言わず黙ってついて来い。何度も言うが話は後だ」

 彼は、またぶっきらぼうに告げると左手を差し出す。フルンはその手を暫く凝視してから、片手を出して彼の手を取った。すると人

間と全く同じ感触に度肝を抜かれ、驚愕の余りすぐに手を離した程だ。彼女は眉根を寄せて怪訝な表情を浮かべるが、触れてしまった

からには信じざるを得なくなってしまう。

「ほ……本当に天使なのね? 感触もあるし、人間と変わらないなんて……。変な感じ」

「そんな事は、今はどうでもいい。早くしろ」

 緊迫した状況の中、金髪碧眼の天使は先に部屋を出て行くとフルンも黙って後をついて行く。どうやら、彼女の頭の中に逃げると言

う文字は存在していないようだ。彼を安全な人物と見なして、少しは信頼しているのだろう。少々言動が冷たい部分があるが、そこを

除けば悪人とも言えなかったからだ。廊下で待機していた彼に促されるまま、フルンは緊張した面持ちで白い羽を持つ天使の後に、再

び着いて行くことにした。






ランキングに参加しています。ポチッとお願いします♪



<<Back  Next>>