[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―第二章 ルロ―


第5話:市場(1)



 外へ出ると、玄関脇でハミュルが腕を組んで壁に凭れて待機をしていた。

 「あっ……ハミュル、サンダルありがとう。ちょっとブカブカだけど……」

 「今は我慢してくれ。ほら行くぞ」

  ハミュルは一方的にフルンの手を取ると、そのまま何処かへスタスタと歩いていく。整備されていない道中は、土が剥き出しでア

スファルトは存在せず、野道が広がっていた。脇には並木があり、自然に囲まれているが特に変わった所は無く、まるで日本の田舎を

散歩しているような錯覚に陥る。しかし観察を続けて行くうちに、フルンは木の葉の色が透明なものや、虹色の物を発見すると、目を

見開き驚愕しながら硬直した。

 「おい、何をそんなに驚いているんだ?」

 「だって、葉っぱの色が虹色や透明だなんて驚かない筈が無いじゃない! こんな事ってあり得ないわよ? 見たことも無いわ!」

 「ルロでは、ごく普通のことだ。そうか、地球では見かけないものだったな……」

 「……しっ……信じられないわ。でも凄く綺麗。幻想的ね! 所で、今、ここの季節は春になるの? それとも秋?」

 「今は、春だな。日本と同じで、こちらにも四季はあるからな」

 「えっ?! ハミュルって、どうしてそんなに地球に詳しいの?! 日本も知っているなんて……」

  ハミュルは、悪戯な笑みを浮かべるがただ黙って口を閉ざしていた。どうやら話す気は無いようだ。フルンは、興味津々のようだ

が何も話さないハミュルを見て、ただ小首を傾げていた。



  更に二人は歩を進めていくと、彼女が一番度肝を抜かれる光景に出くわす。それはこの世界の住人達で、フルンの目前には、天使

や妖精が当たり前のように談笑をしながら和気藹々と行き交っていた。地球では考えられない光景に、彼女は驚愕して右顧左眄をして

いると、茫然自失とばかりにその場に立ち尽くす。


 妖精?! 天使?! 何これ?! ここはファンタジーの世界ですか!? あっ……ある意味ファンタジーの世界か。同じ地球でも

ここはもう一つの地球でルロと呼ばれていて、所謂異世界だもんね。まだ認めたくないけど。


  ハミュルは、薄笑いを浮かべてやれやれと言いたげに「おい、行くぞ」とフルンに再び声を掛けて更に引っ張って行く。フルンは

ハミュルの台詞にハッと意識を戻すと、やがて自分の足で歩き出す。サイズが合わないせいか、いつもよりフラフラとした歩みになっ

ている。隙間があるせいでパカパカとしていて、走ることは難しいようだ。

 「百面相してないで、サッサと歩いて欲しいんだが?」

 「……だって驚くなって言う方が難しいわよ。それに急いでいるようだけど、何か用事があるの?」

 「お前に見せたいものがある」

  ハミュルはフルンの右手を握りなおして、解けないように一本一本の指を絡めた。所謂恋人繋ぎで、彼女はハミュルの左手をチラ

リと見ながら少し嬉しそうに笑った。誰かと手を繋ぐのが久しぶりだからだろう。抱擁ならマイケルといつもしているが。



  更に野道を直線に歩いて行くと、次第に人だかりが増え始めて「あれは何?」と彼女がハミュルに問う。彼は「ナウィリ市場だ」

と告げると、ゲートを潜ってフルンと一緒に中へ入って行く。

  市場には、加治屋から果物屋まで随所に並んでいた。穏やかな雰囲気に包まれつつも活気のある場所で、驚いたことに店主は大人

の天使や妖精ばかりだ。それ所かお客さん自体も、大人の天使や妖精ばかりで人間の姿が全く見当たらず、フルンはすっかり度肝を抜

かれて言葉も発しなかった。彼女の様子に気付いたハミュルは、心底面白そうに笑みを浮かべて揶揄を始める。

 「どうした? 驚きの余り声も出ないのか? ここがお前に見せたかった場所だ。流石にここまで見せられたら、嫌でも信じざるを

得ないだろう?」

 「…………流石に、これを見ちゃうとね……」

  フルンは試しに、自分の頬を引っ張ってみる。しかし、これが現実で夢じゃないとばかりに周りの景色が変化することは無かった。

 「言っただろ? ここは地球じゃないと。それでも信じないのなら好きにすればいい」

 「うっ……。まだ信じたくないけど、夢じゃないのね」

 「地球ではそうであっても、ルロでは俺達はちゃんと平和に暮らしているさ」

  彼は鼻で笑い飛ばすと、フルンと手を繋いだままお店を見物しながら歩いていく。すると彼女は行き交う存在達に、物珍しそうな

顔をされている事に次第に気付き始める。どうやら本当にルロでは、人間は珍物扱いをされるようだ。

  フルンは照れ臭さから、ハミュルの後ろに出来るだけ身を隠しながら、頭に浮かんだ疑問を彼に訊いてみる事にした。

 「ねえハミュル。天使や妖精以外には、この世界にはどんな存在がいるの?」

 「龍やペガサスだな。あいつらも人型になれるが、お前だと一目では解り難いな。あとユニコーンもいるぞ」

  フルンは、ハミュルの台詞を聞いた途端に、これ以上無い程に目を輝かせて興奮気味に話す。

 「えっ?! ペガサスも!? 嘘、会ってみたいわ! 皆、人の姿になれるの?」

 「ああ。市場では人通りが多いから、元の姿だと巨大で邪魔になるからな。人型になってもらわないと、市場なんてすぐに吹き飛ぶ

ぞ」

 「ペガサス! ペガサスー!! 会いたいわー!!」

  有頂天になっているフルンを見て、ハミュルは薄笑いを浮かべて深々と溜息を吐く。相当呆れている様子で小さく頭を振っている。

 「全く。お前は人の話を聞いているのか? ああそうか、そう言えばフルンはペガサスが大好きだったな。もうこれでいい加減わか

っただろう? ここはお前の住んでいた地球じゃないと」

 「うーん……。まあ……ねぇ……」

  フルンは、眉を潜らせて戸惑いながらも、もう一つの地球が存在することを次第に受け入れ始める。地球では天使や妖精がいたと

しても、ファンタジー小説や映画や絵画やゲームの世界だけだ。皆、空想上の生き物として扱われ、本物を見たことがあるのは誰一人

としていない。いたとしても当然目には見えないので、いないも同然の扱いだった。

  フルンは、今ハミュルと繋いでいる右手を見て、徐々に納得し始める。





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