[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―第二章 ルロ―


第5話:市場(3)



「オルトとセシリスじゃないか。なんだ? 二人とも買い物に来ていたのか?」

「やっぱりハミュルか。俺は大図書館の帰り道で、そこの果物屋でセシリスと偶然会った」

 オルトは、近くの果物屋さんに視線を向けて腕を組む。次に、セシリスがハミュルに視線を向けて口を開く。

「俺は、リュミアを追い出して買い物に来ていたところだ。オルトと話していたら、そこの女の子にぶつかった」

「ハミュル……この天使さんにぶつかっちゃって……ごめんなさい」

 フルンは、ハミュルにも謝罪を告げるが、彼は「いや、大丈夫だ」と言って然程気にしていないようだ。それよりも顎に手をやって、

何か違うことを思案している。その様子を見ていたフルンは、ただ小首を傾げてハミュルを不思議そうに見据える。


家に帰ってからオルト達に連絡を取ろうと思っていたが、丁度タイミングがいいな。


「オルト、セシリス。仕事は大丈夫か? 俺の家で話がしたい」

 ハミュルの提案に、オルトはフルンを興味深そうに見据えて笑みを浮かべ、セシリスはポーカーフェイスのまま軽く頷いて返事を返

す。

「ああ。俺は大丈夫だぞ。そこの女の子のことだろう? 興味がある」

「俺も大丈夫だ。昨日、大方は片付いている」

 二人の天使は、快く了解を出す。そこでオルトは、今まで三人の話を黙って聞いていたフルンに視線を向けて簡潔に自己紹介を始め

る。相変わらず市場は賑やかな声で包まれており、オルトはいつもより少し大きめの落ち着いた音声で話す。

「自己紹介が遅れて悪かったな。初めまして、ハミュルの幼馴染のオルトだ。宜しく」

「こちらこそ宜しくお願いします。って、えっ!? オルトさんは、ハミュルの幼馴染なんですか!?」

「ああ。幼少の頃からずっと一緒だ。あと、さん付けはいらないからな。俺達は、そういうのは気にしない」

 オルトは「なっ?」と悪戯な笑みを浮かべて、ハミュルの肩に肘を乗せて笑う。ハミュルは眉根を下げながらうっとおしそうに、彼

の肘を振り払い睨み付ける。

 フルンは、オルトの台詞に満面の笑みを浮かべて「はい」と元気よく返事を返す。彼女の性格上、敬語は相手との距離を感じてしま

うという思い込みがある為あまり好きじゃないのだ。必要があれば話すが、好んで使用することはあまり無い。彼の気さくさにフルン

は好感を抱いたようだ。

 今度は、一人口を閉ざしてオルトとハミュルを見ていたセシリスが、フルンに向かって握手を求めるように大きな手を差し出した。

「セシリスだ。宜しく」

 急に挨拶をされたことにフルンはビックリしながらも、ハミュルからのプレゼントを反対の手に持ち替えて大きな彼の手を握り返す。

同時に、今度はフルンが明るい声で自己紹介をする。

「桜空フルンです。フルンと呼んで下さって構いません。宜しくお願いします。セシリスさん」

「ああ。俺の事もセシリスと呼んでくれ」

 セシリスは、フルンと手を離すと小さく暖かい笑みを浮かべた。それぞれ簡潔な自己紹介が終わり、オルトはハミュルの肩に肘を乗

せたままテレパシーを送る。

――所でハミュル、フルンの服はどうした? それに、あのサンダルだってお前のだろう?

――フルンは、こっちに着たばかりだからな。あの服しかないんだ。あとで分身達に買い物を頼むつもりだ。

――流石に、ずっとパジャマのままじゃ、幾らなんでも困るだろうからな。

――わかっている。

 ハミュルは、オルトとのテレパシーを切り、各自それぞれに歩き出す。フルンは、ハミュルの隣に並び、オルトとセシリスは二人の

後を歩いていた。二人とも興味津々の眼差しで、フルンを観察している。こんなに真近に人間を見るのは初めてだからだろう。
 
「そう言えば、セシリス。リュミアは、どうしたんだ? さっき追い出したと言っていたが?」

「ああ……。あいつなら今頃自宅か、ハミュルの家の周辺にいそうだけどな。俺が追い出しただの、なんだのいつものように愚痴に来

るだろう?」


流石、セシリスだな。リュミアの行動を読んでいる。


 市場のゲートを潜り、前を歩いていたハミュルは微苦笑を浮かべる。辺りは、野道が広がっており、市場とは違い周囲の人数が徐々

に減ってきている。上を見上げると、相変わらずいい天気で晴れ晴れとした青空が何処までも広がっていた。フルンは、ふと思った浮

かんだ疑問をハミュルに訊こうと彼が着用しているゆったりとした白色のガウンを軽く揺する。

「ねえ、ハミュル。リュミアさんって、友達なの?」

「ああ。俺達の中で一番明るくて天真爛漫な奴だぞ。会えばわかる。お前と似た部分があるから気が合いそうだ」

「そうなの? じゃあ会ってみたいわ!」

 楽しそうな声でフルンが笑みを浮かべていたら、後ろを歩いていたオルトがフルンに問う。ハミュルもフルンに視線を向けながら、

野道を真っ直ぐ歩いていく。行きと同じ道だ。

「所で、さっきからずっと思っていたんだが。フルンが手に持っている小さな箱は何だ?」

「これはさっき、ハミュルがプレゼントしてくれたの。中身は、クリスタルで作られた天使よ」

 フルンの話に、オルトとセシリスは一驚して目を丸くする。ハミュルは照れくさいのか、少し頬を染めた表情を隠すように周囲の自

然を観察していた。とても珍しいものを観たとばかりに、オルトはニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべる。打って変わって、セシリスは不

思議そうに首を傾げながら口を開く。

「俺も、ずっと思っていたことがあるんだが、フルンは、いつこっちヘ来た?」

「数時間前だ。俺の部屋に突然現れて、ベッドの上に寝ていた」

「そうなの。私は、自分の部屋に誰か不審者がいると思って大騒ぎしたけど……」

「……なんて現れ方だ。聞いた事も無いぞ。前代未聞じゃないのか?」

「俺も無いな……」

 オルトとセシリスが絶句していると、ハミュルも同じく「俺だって無い」と苦笑を浮かべながら呟く。フルン自身も、どうやら自分

が余程変わった方法で、こちらに来たらしいと察する。

「……それってどういう意味なの?」

「人間は、大神殿の転移門から現れる事になっている。それなのに、フルンは例外中の例外だ。だから俺達も不思議で堪らないわけだ」

「じゃあ私は、あり得ない方法でこの世界に来てしまったわけね?」

「簡潔に言うと、そういうことになる」

 オルトやセシリスの説明に、フルンは口を閉ざして黙り込む。


あの天使の鏡って、一体何なの? なんで、こんな異世界に繋がっているわけ? 訳がわからないわ。帰ったら、マイケル叔父さんに

聞いてみようかな。


 その様子を隣で見ていたハミュルは、フルンの頭を優しく撫でて慰める。オルトとセシリスは、ハミュルのその言動にまた一驚して

二人で顔を合わせていた。

 すると、遠くにギリシャ風の青い屋根の家が見えてきた。ハミュルの家だ。





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