[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―第二章 ルロ―


第6話:会合(2)



 大窓の近くで、ウィラエルは一人胡坐をかいて難しい表情を浮かべていた。目前には透明の球体が浮かんでおり、ハミュル達の様子

が映像化されている。その足元を見ると、複雑な何かの文字が書かれた魔方陣が青白い光を放っていた。この魔方陣が、映像を写して

いる元のようだ。

「……奇妙な人間だ。一体、どうやってルロに来た? こんな事は初めてだな……」

 腕を組みながらウィラエルが溜息混じりに呟く。それもその筈だ。本来、ルロ側にやって来る人間は、神殿か若しくは転移門を通る

かの二択のみだ。しかしフルンの場合、誰かが神殿に呼び出した訳でもなく、転移門を使用していない上に、突如ハミュルの家に現れ

てベッドで眠っていたのだ。誰もが不可解極まりないと思うだろう。現に、博識なウィラエルでさえ、頭を悩ませているレベルなのだ。

 その時、執務室の出入り口のドアからノック音がする。

「ウィラエル、俺だ。入るぞ」

 部屋に入ってきたのは、ウィラエルと同様に大男で背中に純白の翼があり、雌黄の髪と群青の眼を持った天使だった。ウィラエルは、

苦笑を浮かべたまま振り返り「よう。ジュナエル」と親しげに彼に声を掛ける。ジュナエルは、ウィラエルに微笑みかけることも無く

落ち着いた声で疑問を口にした。

「ウィラエル、お前の部下の家に人間がいると情報が入ったが……? お前は知っているのか? いや、愚問だったか?」

「ああ。今もその様子をずっと見ている所だ。ちなみにその人間なら、今ハミュルの家にいるぞ? ジュナエル」

「流石だな。やはり情報と言えば、お前だな」

 ジュナエルは、ウィラエルの隣に胡坐をかいて、魔方陣が映している球体の映像を見つめる。映像の中では、ハミュルとフルンが対

座しながら話している様子が流れていた。音声ももちろんついており、二人の会話も筒抜けだ。

 ウィラエルは、ジュナエルに顔を向けて自分が持っている疑問をぶつけてみる。

「ジュナエルは、この娘を見てどう思う?」

「……待て。俺も今それを見ている。ただ一つ言えるのは、一般的な人間と比べて異質に感じる。何処がどうとまでは上手く説明出来

ないが……」

 腕を組みながらジュナエルが答えると、ウィラエルは「それは俺も感じる」と言いながら、再び球体に顔を向ける。その眼差しは、

疑問に満ちているようだが、好奇の色も含まれているようだ。何か面白い玩具でも見つけたかのように。

「視た所、精神と肉体と魂に異常は無いようだ。ただ、もう少し頑丈な結界を張った方が安全だな。あと、どうやってこっちに来たの

かを聴く必要性もある。お前も情報を得られなかったようだな? 弾かれたか?」


ジュナエルでも、理由がわからなかったか。


「ああ。かなり頑丈にブロックがかかっている。一体、誰が施したのか。それすら見当も付かない。あと、リーダー。この少女はどう

する気だ? 向こうに帰すとなると、片割れを探す必要がある。あっちに連絡を取る必要も出てくるが?」

「その辺りは、この娘の選択を聴いてからでもいいだろう。状況によっては、クレシオンに伝える必要性が出てきたら俺がする」

 ウィラエルは複雑な表情をしたまま頷くと、ジュナエルは立ち上がって彼の部屋を出て行こうとする。そこで、扉の取っ手を握りな

がら思い出したように、彼にあることを伝える。

「それから、ウィラエル。後で俺も一緒に連れて行け。ハミュルの家に行くつもりだろう?」

「……お前自ら出向くなんてな。わかった。後で連絡を入れる」

 ウィラエルは、ジュナエルの方を振り返って「じゃあな」と片手を上げて挨拶をした。
 









 セシリスに散々追いかけられたリュミアは、彼にガウンの後ろを引っ張られながら帰還した。相変わらず、セシリスは眉間に皺を寄

せておっかない表情のままで、リュミアに至ってはぐったりとした様子で「クッキーが食べたい!」と叫んでいた。彼らしい台詞だ。

 オルトとハミュルは、帰ってきたとばかりに机上に五人分の紅茶と、円形の白い大皿の上に大量のクッキーを並べていく。形も丸や

四角と様々で、十人分はありそうだ。その様子を見ていたフルンは、余りの量に唖然としながらも「美味しそう!」と口に出す。セシ

リスがリュミアを離すと、彼は机上を見るなり、これ以上に無いほど目をキラキラと輝かせてハミュルに視線を向けた。

「ああああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!! クッキーーーー!! ハミュル食べてもいい?! 俺、エネルギー

が切れそうなんだ!」

「ああ。遠慮なく食べていいからな。リュミア、急いで食べるなよ? まだ、たくさんあるからな」

「やっぱり、ハミュルは優しいなぁーーー!! どっかの誰かさんとは大違いだ」

「リュミア、一言多いぞ」

 呆れながらオルトが言う。セシリスはリュミアの台詞を聞いた途端、更に眉間に皺を寄せると彼の腰をギュッと摘む。リュミアは瞬

時に「ギャーーーーー!!」と叫び声を上げると笑い声を上げた。彼の弱点でもある場所だ。セシリスは、にやりと悪戯な笑みを浮か

べると、何事も無かったかのように外に視線をやった。


ハミュルって、友達には優しいみたいね。私には、ぶっきらぼうだだけど、仲良くなったら皆のようになれるのかな?


 ちらりと、フルンはキッチンからポットを持ってきていたハミュルと目が合う。その碧眼の目は、先程とは違い何か言いたげな不服

そうな色合いを浮かべていた。そのままハミュルは何も言わずにキッチンへ戻ると、フルンは小首を傾げて再びリュミアとセシリス

目をやる。

 リュミアは玄関ホール側の椅子に腰掛けると、その横にセシリスが腰を下ろした。右隣には出窓があり、心地よい風が入ってくる。

オルトもセシリスの前に着席すると、紅茶を入れようとカップに手を伸ばした。その横にはフルンが既に席についており、ハミュルは

臨時の椅子を用意すると出窓の正面に着席する。

 既に、クッキーを食していたリュミアは満面の笑みを零して周囲に幸せオーラを振りまいていた。まるで周囲に花が咲き乱れている

かのようだ。フルンは、リュミアに自己紹介をしようか迷っていると、その様子に気付いたハミュルが彼女にリュミアを紹介した。

「フルン、さっき話していたリュミアだ。見ての通りクッキーが大好物で、甘いものに目が無い」

「そうなんだ。宜しくお願いします、リュミアさん。私は、空桜フルンと言います」

 セシリスは、隣でクッキーばかり食しているリュミアを見て溜息を吐き、肘で脇腹を小突く。そこで漸くリュミアはハッと我に返っ

たかのように、フルンに向かって照れ笑いを浮かべて自己紹介を始める。

「あっ、俺はリュミア! 俺の事は適当に呼んでくれていいから。えーっと……じゃあフルンちゃんって呼んでもいい? ハミュルと

は旧友なんだ! あと俺さ、敬語使われるの苦手だから。もっとフランクにいこうぜー!」

 リュミアは一気に捲くし立てると、また幸せそうにクッキーを頬張り食べ始める。これでよく太らないのが不思議だが、彼は太りに

くい体質なのだろう。あっけらかんと自己紹介を終える。

「あっ。はい! じゃあリュミアって呼ぶね」

「オッケー! 俺も、フルンちゃんって呼ぶから!」

 セシリスは、隣席のリュミアの様子を見て、また腕で脇腹を小突きながら注意を促す。いい加減にしろと怒りのこもった眼差しで、

セシリスは隣のリュミアを見下ろした。

――リュミア、お菓子を頬張るのはよせ。後で幾らでも食べられるだろう? まずは、話し合いが先決だ。

 セシリスに注意されて、リュミアはクッキーを食していた右手を漸く止めて、微苦笑を浮かべながら傍にあったおしぼりで手を拭く。

「あっ……ごめんごめん! クッキーが美味しかったからつい……へへ。俺ここのクッキー大好きなんだ! このチョコレートとクッ

キーの味がいいよな! しっとりしたのも美味しいし、サクサクした物も好きだ! 特に俺は、チョコレートやココア味が大好きなん

だ」

「リュミアは、クッキーが本当に大好きなのね。食べている時の表情がとても幸せそうだもの。ちなみに、私もココア味と塩クッキー

が好きなの」

「へぇーそうなんだ! 俺さ、三食お菓子でもいいぐらい甘いものが大好きなんだ。特にクッキーには目が無いんだ。後はやっぱり、

紅茶に浸して食べるのも美味しいよなぁ!」

「私もその食べ方が好きなの! 家でよくしていたわ。クッキーに紅茶が染み込んでいて柔らかくて癖になっちゃうのよね!」

 そこで、今まで口を閉ざしていたオルトが声を上げる。





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