[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―第二章 ルロ―


第7話:小さな存在(1)



 小さな雲の存在は、嬉しそうにはしゃぎながらピョンピョンと跳ねて、仕舞いにはドアにペタっと無邪気に張り付く。

「ねぇーねぇー、ハミュル、開けて! 僕だよ! 中に入れて。中に入れて。あのー入ってもいい?」

「クランじゃないか。リュミアが呼んだのか?」

 ハミュルが驚きながら庭園に通じるドアを開けて、クランと同じ視線になろうと腰を屈める。クランは、澄んだ黒眼をハミュルに向

けて親しげに明るい声で話しかけた。外は心地良い風が吹いており、ハミュルはそのままドアを開放して開けっ放しにする。

 他のメンバーは、フルンの話に夢中になっており、クランの存在に気付いていないようだ。


あぁー、やっぱりハミュルは優しい。クラン、ハミュル大好き。クランに気付いてくれて嬉しい!


「ううん。家の片付けが終わったから、リュミアさんがいるハミュルの家に遊びに来たんだ」

「構わないが、人間の女の子がいる。驚かないでくれよ?」

「えっ!? あっ……うん、わかった!! でも、なんで? あーでも僕、驚かないから。中に入れて。中に入れて。リュミアさんに

会いたいよ」

「わかった。わかった。クランは、本当にリュミアが好きだな」

「リュミアさんも大好きだけど、ハミュルも大好きだよ」

 クランの素直な気持ちに触れて、ハミュルがにっこりと天使の笑みを浮かべて、小さいなふかふかの頭を撫でると部屋の中に招く。

リュミアは、ハミュルが家の中に招いた存在に気付き、眼を丸くして席を立つ。クランはすぐに「リュミアさーん!」と彼の元へ一直

線に走っていくと、満面の笑みでぴょーんと腕の中に飛び込んだ。そこで、フルンはクランの存在に我が目を疑い、オルトは眼を丸く

して、セシリスだけはムッとした表情を浮かべていた。あまり、クランの事を好ましく思っていないようだ。

「クラン、来てたのか? あービックリした! 仕事は終わったのか?」

「今来たの! 僕、あのー全部終わらせたよ! リュミアさん、ハミュルの家に行くって聞いていたから遊びに来たんだ!」

 リュミアは、「偉いぞー! クラン!」と彼を褒めながら頭を撫でる。彼は、クランを抱っこしたまま、再び席に戻り腰掛けようと

した途端、クランとフルンは互いに相手の事をジロジロと観察し始める。


いい加減に慣れてきたけど、またここが地球じゃないと思い知らされたわ。雲で出来ているのかな? 不思議な子だわ。リュミアとど

ういう関係なんだろう? それにしても、なんてふかふかで柔らかそうなの! 可愛い!


 クランは、片手で口元を隠しながらリュミアにテレパシーで話しかける。フルンに興味津々のようで、人間に会うのは初めてのよう

だ。クランはモジモジと照れくさそうにフルンに暖かい眼差しを向ける。

――リュミアさん、この人が人間の女の子? ハミュルから聞いたんだ。とっても可愛いね!

――彼女は、フルンちゃん。地球から来たらしいんだ。可愛いだろう? 俺もそう思う。

――クランね、フルンちゃん大好き! 素直で優しそうだね。クラン、フルンちゃんと友達になりたい。しゃべってもいい?

――じゃあ、フルンちゃんに自己紹介しないとな!

 彼がフルンにクランを紹介をしようとした所、自らフルンに向かって明るい声で話しかける。クランは、リュミアと似て社交的な性

格をしているようだ。

「やあ、僕はクラン! リュミアさんが造ってくれた召使なんだ。宜しくね!」

 クランがフルンに握手を求めると、彼女は彼のふかふかの手を戸惑いながら握り返す。初めての未知の存在に少々不安があったよう

だ。無理も無いだろう。フルンから取ったら、クランは宇宙人とも呼べる存在なのだ。

 次に、フルンがクランに向かって自己紹介を始める。

「私は、桜空フルン。フルンって呼んでくれていいからね。クランはとっても柔らかいのね。私、雲を触ったのって生まれて初めてだ

し触れる日が来るなんて思いもしなかったわ。それに凄く可愛いわね。こちらこそ宜しくね」

 フルンの台詞に、クランは嬉しそうに眼を輝かせてテーブルに手をついて、足をぴょんぴょんとジャンプさせながらはしゃぎ始める。

隣にいたセシリスは、少々五月蝿そうに眉間に皺を寄せていた。

「そう? そう? 僕、ふわふわでしょ? 皆に可愛いって言われるんだ! はぁ〜とっても嬉しい! フルンも凄く可愛いよ! 仲

良くなりたい! もっともっと君と仲良くなりたい!」

「そう言ってくれて凄く嬉しいわ。ありがとう! でも、リュミアの召使ってどういう意味なの?」

 そこで、リュミアがクランを落ち着かせて座らせると、彼との関係をわかりやすく説明する。

「クランの説明の前に、まず俺の仕事の説明をするな! 俺は、フリアエル部隊所属の上位天使なんだ。さっきもチラッと話したけど

主に芸術系の仕事で絵を描いているんだ。他にもあるぜ! それでクランは、俺が仕事で賞を受賞した時に、フリアエルから貰った特

殊なスケッチブックから生まれたんだ。確かあれは、一人暮らしを始めた頃だったかなぁ。それ以来、クランは俺の家で家事を手伝っ

てくれてるんだ。凄く可愛い奴だよ」

「そうだったのね。じゃあ、クランからとったらリュミアが親になるのね」

「性格は、ドジで間抜けで、どっかの誰かさんに似通ってるけどな」

 リュミアが顰め面を浮かべながら、セシリスを見やると舌を出して睨み付ける。クランも同じく、セシリスに視線を向けるときょと

んとした表情で、思ったことを素直に告げた。

「僕は、リュミアさんが親で大満足だよ。セシリオが親だったら一日で逃げ出してたね」

「セシリオじゃない。セシリスだ。何度言ったらわかる? お前といたら馬鹿が移りそうだ」

 やれやれと皮肉気に、セシリスが頭を抱えながら言うと、クランは気にした素振りもなく笑顔でフルンに話しかける。オルトとハミ

ュルは、セシリスに視線をやるともう慣れきっているのか、にやにやと悪戯な笑みを浮かべていた。普段、クールなセシリスだが、ク

ランの前だと調子が狂うのか面白い言動をしてくれるのだ。それが他のメンバーには面白く見えるようで、ハミュルとオルトはそうい

った部分も含めてクランを気に入っているのだ。

「ねぇーねぇー、フルン。いい意味でセシリオって馬鹿だけど、仲良くしてあげてね。認めたくないけど、剣術の腕前だけはピカイチ

なんだ。本当だよ? あとちょっと変わってるけど、あれ? 大分変わってるかな? 面白いんだ」

「セシリスは優しいわ。私がぶつかった時も、怒らずに赦してくれたのよ?」

 フルンが笑顔でそう告げると、クランは一驚するが、すぐにチッチッチと舌を鳴らして口元を手で隠しながら吐露する。

「でも実はね、大分おかしいよ。この天使」

 クランの台詞に、フルンはどういう意味と言うように目を丸くして、セシリス以外のメンバーが、噴出しそうになるのを必死に堪え

る。セシリスは、眉間に皺を寄せて、不愉快だと言わんばかりにクランの首根っこを無言で掴み席を立つ。彼らは、一瞬のうちにトイ

レの前に瞬間移動すると、ステンドグラスのカントリー風のドアを開けて、セシリスはクランをトイレに閉じ込めて一瞬で結界を張っ

た。すぐにクランは、外へ出せとばかりにトイレのドアを何度も叩き大声で叫ぶ。

「あぁーん! セシリオ、出・し・てー!! クラン、ここ嫌だー! 閉じ込めないでー!! あっ、でもいい匂い。ハミュルの家の

トイレ、相変わらず綺麗だね。ヒャッホーウ! どの本読もうかな?」

「少しの間、そこに入って反省してろ。お前も十分におかしい」

「おかしいって言った方がおかしいんだ! あっ僕も言ったっけ? リュミアさーん!! 助けてー!! クランはここだよ!! セ

シリーがトイレに閉じ込めたよ。あのー酷いと思わない?」

「変てこなあだ名を作るな! チビ」

「あー僕に向かってチビって言ったなぁ!? このデカ!! セシリオひっどいー!!」

「セシリスだ!!」

 セシリスが苛々しながら歩いて帰ってくると、リュミアの隣席にドカッと座る。他のメンバーは面白そうに含み笑いを浮かべながら、

リュミアがトイレに閉じ込められたクランをすぐに迎えに行く。

 クランとセシリスのやり取りを見てずっと苦笑を浮かべていたフルンは、ピリピリとした空気をどうにかしようと無理やり話題を変

更して、皆の背中にある剣を見てオルトに訊ねてみることにする。





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