[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―序章―


第0話:過去(2)



――書類を渡したら、とっとと帰るからな。長居は無用だ。

――そうだな。仕事だって溜まっているからな。

――本音を言うと、ドアの前に書類を置いて今すぐに帰りたい気分だ。そうだ! ノックをして、瞬時移動してもいいよな? 一応、
俺が、持ってきたことに違いは無い。

――本体…。

 隣で苦笑を浮かべている分身に、ハミュルは大きな溜息を吐き「ウィラエルと顔を合わせると、いつもろくな事が無い」と愚痴を言

ながら渋々諦め、大きな扉を二度ノックする。少しして、室内から身長二メートルを超す大男が姿を現した。クールな雰囲気を醸し出

しており、ショートヘアの癖のある眩い金髪に、深いインディゴブルーの碧眼が魅力的だ。その背には、ハミュル達よりも大きな純白

の翼があり、青く光り輝いた大きな青剣を背負っていた。逆三角形の筋肉質な体系は、鍛えられているようでまさに完璧。ゆったりと

した白色のガウンを着こなしており、腰にはコバルトブルーのサッシュを巻き着け、同色のサンダルを履いている。細部は異なるが、

ハミュルと同様のスタイルだ。

 彼は、ドアに凭れ腕を組むと、頭二つ分程背丈が違うハミュルの姿を見下ろし頭をかき撫でる。そのせいで元々癖毛のハミュルの金

糸の髪が、更にクシャクシャになった。彼は、部下が来てくれたのが嬉しいようで、口角を上げてにやりと満足気な笑みを浮かべる。

「随分と早い到着だな? そんなに俺に会いたかったのか? ウィラエル部隊上位隊長のハミュル殿。少しは身長が伸びたようだな?」

「ウィラエル……」


よりによって、本体が一番気にしていることを……。この上司は。


 ハミュルの分身は、引き攣り笑いを浮かべて、本体である彼の怒りを収めようとどうどうと肩を叩いて沈める。しかし、既にハミュ

ルは、上司である彼を鋭利な目付きで睨み黙り込んでいた。口を開けば、これまでの鬱憤を捲くし立てそうな勢いで、逆鱗に触れたよ

うだ。

「ハミュルそう怒るな。お茶の準備が出来ているから中に入れ。その書類は、預かろう」

 ウィラエルの楽しそうな揶揄交じりの台詞に、ハミュルはピクンと片眉を吊り上げる。まだ怒りは収まっていないようで、上司を睨

み付けたまま、怒声を含んだ音色で言い放つ。

「俺は、他にも仕事があるからとっとと帰るぞ。じゃあな! 大天使ウィラエル。邪魔した!」

 ハミュルは、ぶっきらぼうに上司に書類を押し付けるなり、さっさと帰ろうと踵を返す。隣にいた彼の分身は、困り果てた表情を浮

かべて、上司に謝罪して書類を渡すとハミュルの後を着いて行く。そこでウィラエルは、ちょっと待てとばかりにハミュルの手首を掴

み、心底楽しげに笑みを浮かべながら彼らを引き止める。


こいつは、なんでこう面白いか。真面目故に、真に受けて躱す事を知らないよな。何処かの誰かさんを彷彿させる。


「まあ、そう焦るな。それに、オルトに手渡して欲しい物もある。少し頼まれてくれ。あとお前にも渡す品物がある」

「……断ると言ったら?」

「今から大量に書類を送りつけて、上位隊長から上位副長に降格してやる。……職権乱用と言われてもな?」

「俺に、拒否権は無いのか……」

 上司の台詞に、ハミュルはギクリと少々青ざめながら視線を逸らす。相変わらずウィラエルは、楽しげな表情で部下である彼を見下

ろしていたが、その目は笑っていないようだ。


ウィラエルの奴、聞いていたな? 部下の監視が仕事に入っているとは言え、悪趣味だ。


「馬鹿を言え。仕事だ仕事。お前の私生活まで覗いている暇は無い。さっさと中に入れ」

「……ウィラエル、俺の心を勝手に視ないでくれ。俺にも、プライバシーがあるんだぞ!」

「視たくて視ている訳じゃない。ダダ漏れなだけだ。しっかりブロックしないお前にも非がある。まだまだだな」

「それで、俺に渡す品物ってなんだ? 一体、誰からだ?」

 ハミュルの問いに、ウィラエルは口元を吊り上げて笑みを浮かべるだけで何も答えなかった。彼らは嫌な予感がして、肩から盛大に

溜息を吐き、渋々上司の部屋に入る。これまでの経験上、どうやらハミュルは、ろくでも無い用件だと判断しているようだ。

 「そこに座ってろ」

  ウィラエルに言われた通り、部屋の奥にある白色のゆったりとしたソファーに、ハミュルは腰掛けた。傍には大窓があり、ソファ

ー同士の間にはローテーブルがある。部屋は、白と青で統一されており、広さは二十帖余りの長方形のようだ。入り口のドアの正面に

は大きな机があり、その背後には、本棚が所狭しと並べてあった。付近には、書類の山が複数キッチリと綺麗に並べてあり、几帳面な

部分が窺える。

 ハミュルの隣席に彼の分身が座ると、ウィラエルは机上に置いていた本を手に持ち対座した。

「これがオルトに手渡して欲しい本だ。いつ返してくれても構わないと伝えてくれ」

「わかった。手渡しておく」

 彼は、上司から分厚い茶色の本を受け取り、承諾の意味で頷くとガウンの袂に入れた。次にウィラエルは袂の中を弄ると、ピンクの

ハート型の鍵が中央に大きく描かれた本をハミュルに手渡す。サイズは、文芸書とほぼ同じサイズで、背景は真っ白だ。ハミュルは、

怪訝な表情を浮かべながら首を傾げた。ウィラエルは、落ち着いた音色で語る。

「それから、これがお前宛の本だ。恐らく中身は、お前しか読むことが出来ない。何か特殊な鍵が掛かっているようだ。クレシオンか

ら預かったが、著者は別のようだな。心当たりは無いか?」

「……見た事が無いな。一体、誰の本なんだ? それに何故、クレシオンが関係している?」

「それは不明だ。ただ、理由あり物であることは確かなようだな。その中に、一体何が書かれてあるのか? 俺自身が一番知りたい所

だぞ。流石に、お前の本である以上、それは出来無いが」

 少々悔しそうに、ウィラエルはハミュルが手に持っている白い本に視線を向ける。ハミュルの分身も怪訝そうに首を傾げて、興味深

々に本を眺めていた。

 ハミュルは背表紙や裏表紙を見ながら、にやりと笑みを浮かべてウィラエルに皮肉的な冗談を告げる。

「意味不明な本だな。何でもお見通しのウィラエルでも、視えないものがあるのか。それほど珍しい本なんだな?」

「馬鹿を言え。俺だって、完璧じゃない。大天使だからと言って、何でもかんでもホイホイわかるか。ただお前達よりも、視る事が長

けているだけだ」

 さも当たり前のように、ウィラエルは怒声交じりに告げると苦笑を浮かべる。その様子を見て、ハミュルは、再度ニヤリと笑みを浮

かべた。

 売り言葉に買い言葉。上司と部下でありながらも、ここまで皮肉的な冗談が言い合えるのは仲がいい証拠だろう。

 彼の分身は、ハミュルが手に持っていた本を凝視しながら、疑問を口にする。

「それにしても、これは一体何の本なんだ? タイトルも無ければ、著者が不明な点も引っかかる。それに鍵付きな部分もだ。謎だら

けだな?」

「少なくても、お前に危害を加える本では無い。そんな危険は感じは、その本からは感じないからな。仮にも危険な物なら、誰が可愛

い部下に手渡すか」

 堂々と告げる上司の台詞に、ハミュルは引き攣った笑みを浮かべながら、片方の眉根を下げた。心底、信じられないとでも言いたげ

な表情だ。

「気のせいか? かっ……可愛い部下と聞こえたが?」

「当たり前だろう? お前は一体、俺のことを何だと思っている?」

「鬼……いや、じょ……上司だ」

「ハミュル、鬼といったことは特別に聞かなかったことにするが、次に言ったらそこの書類を全部お前にまわすからな?」

 ウィラエルは、満面の笑みを浮かべながらハミュルに視線を向ける。パッと見、顔は笑っているが、インディゴブルーの目は笑って

いなかった。ハミュルの分身は、青褪めながら本体である彼に軽く肘で小突く。まるで、それ以上は何も言わない方がいいと注意して

いるかのようだ。

「後一つ言うが、この本の主は、お前の関係者である事は確かだろう。今まで散々色んな本を見てきたが、こんなにおかしな本を俺は

見たことが無い。タイトルが無ければ、この何十ものロック。挙げ句の果てには、著者さえ不明。一体、何処の誰が何の目的で作った

のか? 是非知りたい」

「そっ……そんなレベルなのか? 鍵付の本は、俺も見たことがあるが、ここまで頑丈にロックをしているのは確かに俺も初めてみた。

だが不思議と、俺とは無関係とは言い難くもある本だな。オルトが見たら、興味を持ちそうだ。鍵を開けようと必死になりそうだな」

「彼奴なら、やりかねないな。オルトは、好奇心旺盛だ。試しに見せて見るのも良いかもしれない」

 ハミュルは、鍵付きの白い本へ再び視線を向ける。その表情は何故か憂い顔で、言葉にし難い感情が心中で渦巻いているようだ。

 それが全ての始まりとも知らずに。





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