[PR]音楽だけではないレゲエの世界

―序章―


第0話:過去(1)



 晴れ渡った青空に、七色の橋がかかっている。地上では、田園地帯が広がりそこかしこに緑が溢れていた。その間には、点々と家が

建てられており、程よい距離感がある。まるで、日本の田舎を思わせる風景だ。

 その中の一軒に、広庭にギリシャ風の二階建ての家があった。一軒家にしては広大過ぎる土地で、東京ドーム二個分の敷地はくだら

ないだろう。特に庭は、庭園と呼ぶに相応しく家よりも数倍広い。それでも、きちんと手入れは行き届いていた。緑もふんだんだが他

にも種類豊富な色取り取りの花々が咲き誇っており、春風に揺れて楽しげに体を揺らしていた。


 家の中を覗いてみると、一階にある仕事部屋で、家主である彼が、大きな木製デスクの端にある高さ一メートルほどの書類の山と格

闘していた。何か重要な書類なのだろう。癖のあるショートヘアの金糸の髪をかいて、コーヒーを片手に書類にサインをするべきか苦

慮しているようだ。

「……どうしようか。あいつの面倒を見るとなると……」

 セルリアンブルーの眼を閉じて、彼は考慮する。背中と椅子の間には、人間には無い純白の両翼を折りたたんでいる。雲のような感

じだ。体には、ゆったりとした白色のガウンを身に包み、腰には、コバルトブルーのサッシュを装着して、足元にも同色のスリッパを

履いている。傍に立てかけてあった剣も同様の色で、面識が無い人物が彼を見れば、青好きなのだと思うだろう。


 静寂に包まれた部屋の中で、そこで光の矢の如く彼にテレパシーが届く。

――ハミュル、大図書館と例の書類を提出してくれ。今日が締め切りだぞ。オルトから、既に受け取っているだろう?

 彼は、テレパシーの相手を知るなり、急に整った眉を顰めて左手に握っていた羽ペンを下ろす。あまり好ましく思っていない人物の

ようだ。ハミュルは、不機嫌そうに小さく溜息を吐く。


全く、厄介な相手からのテレパシーだな。また書類の山を引き渡すつもりじゃないだろうな?


――その書類なら、今朝オルトから預かって、さっきサインしたばかりです。今から、部下達に持っていかせます。

 ハミュルは、オルトから預かった書類を整えながら、ぶっきらぼうな態度で相手へテレパシーを送り返す。まるで、文字を打たない

メールのようで、心に言葉をイメージするだけで相手に通じているようだ。

――たまには、お前自身が持って来たらどうだ? 少しは、上司に顔を見せるべきだと思わないか? ウィラエル部隊上位隊長ハミュ

ル殿。

 テレパシーを受け取った瞬間、ハミュルは、整った眉を更に寄せて心底嫌そうな表情で返事を返す。何か気に障ったようだ。彼の周

りに赤いオーラが発せられる。

――だったらウィラエル。俺が姿を見せる度に、揶揄するのを止めてくれないか? それに、この書類は、一々俺が足を運ぶまでもな

いだろう? 俺は、他にも仕事を抱えているんだ。何処かの優秀な上司様が、昨日大量に仕事を送りつけてこなければ顔を出したけど

な?

――急用だったからな。まあ有能な俺の部下のハミュル上位隊長なら、こんなの朝飯舞だろう? 引き受けると言ったからには、責任

を持って最後までキッチリやって貰わないとな。期限に間に合わなさそうなら、少しだけなら伸ばしてやるぞ? 減給するが。

 別の書類に目を通しながら、ハミュルは彼の上から目線の言動に長息を吐く。さっきよりも更に苛々しているようで、眉根がピクピ

クと震えている。言いたい事が山ほどありそうだが、彼も大人だ。言って良いことと、悪いことの分別は出来ているのだろう。


相変わらず嫌な物の言い方をするな。なーにが期限を延ばすだ。ふざけるな。それにしても、この大量の書類を見る度に思うが、猫の

手も借りたいほどだ。部下に、回せる仕事なら回しているが、回せないのが辛いところだな。


 机上以外にも、デスクの床の周辺には、山積みになっている四個の大きな書類のタワーが待ち構えていた。ざっと見たただけでも、

千枚は軽く超えていそうだ。彼は、上司から与えられた書類を睨み付けるように眺めていると、小さく溜息を吐く。

――それとハミュル。一つ誤解があるようだから訂正しておく。俺は、お前を揶揄しているつもりは無いぞ? ただ、可愛がっている

だけだ。可愛い可愛い部下をな?

――……ウィラエル、俺を揶揄しているのは誤解では無く、紛れも無い事実です。あれで可愛がっている? 嘘も程々に……。

――さて、ハミュル。ズベコベ言わずに、さっさと書類を持って来い。仕事を増やされたいのか? 悪いが、俺も暇じゃ無い。

 ウィラエルが一方的にテレパシーを切ると、ハミュルは大きく溜息を吐き頭を抱える。上司の横暴さに、少々参っているようだ。


ウィラエルめ。このクソ忙しい時に!! 上司だからと言って、こっちの都合も少しは配慮してくれ!! あの自己中大天使め!!


 もう一度、盛大に溜息を吐きながら、ハミュルは肩を落としてよろよろと椅子から立ち上がる。背中にある純白の両翼も、いつもよ

り下がり気味で、参っていることを示しているかのようだ。

 そこでハミュルは、自分と瓜二つの存在を召喚すると、もう一人の彼が目を開けて嬉しそうに微笑みを浮かべた。何処からどう見て

もハミュルそのものだが、決定的に違うのは左手にしてあるゴールドの腕輪だ。これは、本体のハミュルと分身のハミュルを見分ける

為である。

「悪いが、そっちの書類を持ってくれ」

「わかった。ウィラエル相変わらずだよな」

「……まあな」

 自分自身であるがゆえに、分身が何を言いたいのかをハミュルは手に取るようにわかるようだ。その言葉の真意に、苦笑を浮かべる

と書類の山を二人で分割しながら落とさないように持ち上げる。

「全く。上司だからと言って、職権乱用だと思わないか? この書類なら、わざわざ俺が出向く必要は無い」

「そうだな。まあ本体の気持ちもわかるけど、最近ウィラエルに会って無いのも事実だからな。きっと会いたいんじゃないのか? 俺

も、ウィラエルは苦手だけど」

「他人を揶揄する癖を改めてくれたら、好意は持つだろうけどな。まあ仕事の面だけは、素直に尊敬しているぞ? 要領が良くてテキ

パキしている上に、あの情報を掴んでくる速さは、誰も真似が出来ないからな。ジュナエルでさえ敵わない」

「そうだな。何だかんだ言いながら、確かに尊敬はしているからな」

 自分と瓜二つの存在に視線を向けて、ハミュル達はお互いに苦笑を浮かべる。

「じゃあ行くぞ。本音を言うと、行きたくないが……」

「本体……」

 そう言うと、ハミュルと彼の分身は、セルリアンブルーの眼を閉じて瞬時移動を実行する。すると、周りの風景が飛ぶように早変わ

りし、彼らが次に目を開けると、何処かの建物内に到着したようだ。目前には、アーチ状の大きな両開きのコバルトブルーのドアがあ

る。左右には、コバルトブルーのラインが入った白壁と、背後には、大人十人が横並び出来る大きな下り階段があった。高い天井には

豪華なシャンデリアがぶら下がっており、足元には、綺麗に磨かれた大理石の床が広がっていた。





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